僕は学校で彫塑(sculpture)のクラスを受けていました。
主にモデル(ヌード)を見ながら、粘土を使って形を作っていきます。
大きい作品になると、鉄パイプやアルミ線などをつかってフレームを作り、それに粘土を付けて作ります。
フレームで思い出しましたが、以前僕の横で、実物大の大きさで人体を作っていた女の子がいました。その作品は台座からかなりオーバーハングしている、いわゆるバランスの悪い作品でした。
それはいいのですが、肝心要の土台となるフレームや台座が僕が見る限り、雑に作ってあったのです。
僕は密かに彼女の作品がいつか僕の方に倒れてくるのではないかと、いつも心のどこかで恐怖を感じながら制作をしていました。
そしてある日の事、それが現実となったのでした。
想像していたとおり、フレームの取り付け方が甘かったのでしょう、そのフレームの取り付け部が粘土の重量に耐えきれず、外れてしまったのでした。粘土の重量は、想像以上に重いのです。
ギィィィィーと唸りをあげながら僕の方に倒れてきてきましたが、いつも気にしていたおかげで、奇跡的にそれを交わすことができたのでした。もし直撃したらならば、大怪我をするところでした。
ただ僕の身代わりに、僕の作っていた作品が4メートルぐらい飛んでいき、何日もかけて作ってきた作品が、一瞬で見るも無惨に当然ぐちゃぐちゃですわ。
そんなことがありましたが、話はモデルに戻します。
モデルは老若男女いろいろな方がいまして、例えば退役軍人の、やたら筋肉質の爺さんや、スキンヘッドのイカツいゲイ、ものすごい巨漢のおばさんなど、さすがNYですね、キャラクターもとっても濃いモデルが多いです。
作る方から言わせてもらうと、普通でいいんですけどね(笑)
特にこの巨漢のおばさんは、なぜか僕に会うと、覚えたての日本語で「センセイ!センセイ!」と言いながら、その巨体をグイグイ押し付けながらハグしてきます。
さすがにこれには、ちょっと参りましたです。
モデルは確か、1ヶ月から2ヶ月ぐらいで順々に変わります。
ある時、ダンサーの女性がモデルをしていたことがありました。
モデルにもよりますが、だいたい授業を重ねるごとにクラスの皆と仲良くなり、授業の最後の方は、終わりが名残惜しい感じになります。
その日は、彼女の最後のモデルの授業でした。
そのころ、クリスマスシーズンということで、生徒の中で欠席者が日々目立ってきていましたが、その日は先生が来ない日というのもあり、特に出席者が少なかったのです。
結局、授業が始まる時点で、僕を入れてたったの三人だったのです。普段なら20人はいるでしょう。
それも、その三人共が、あまりイケてないおじさんです。
そんな状況ですが、授業は普段通りに始まりました。
彼女にポーズをとってもらって、10分ぐらい経ったころでしょうか、彼女の目から大粒の涙がポロポロと…………..???
我々イケてないおじさん三人組は、何事が起こったのであろうかと、お互いの顔を見合わせてオロオロするしかありません。
恐る恐る彼女に、その涙の訳を尋ねました。
すると彼女曰く、このクラスで自分がするモデルの最後の日に、あまりにもクラスを受けている人が少ないことが、なんとも寂しいと言うのです。
なるほど。
僕なんかは、少ない方がいいではないかと思ってしまうのですが、彼女は違うのです。
ヌードであろうが、なんであろうが沢山の人に自分を見てもらいたいのです。そして、仲良くなったクラスの皆と最後の授業を同じ空間で、共有したかったのでしょうね。
別に僕らが悪い訳ではないのですが、なんだ彼女に申し訳なくてね。
それでも彼女はプロです。
こぼれる涙を我慢して、潤ませた瞳のまま、モデルを続けてくれました。
正直、この日の授業はやりにくかったです。
いつもの様な冗談まじりの楽しい会話も無く、終始重い空気の中での授業でした。
普段真面目にクラスに来ていなかったツケがまわって来たのか、こういう日に限って学校に来てしまうものです。
まあ、日本から来た留学生にとって、クリスマスなんて関係ないしね。